うさみのつれづれ

つれづれ〜

夜道

「夜道を歩く」

 

「うん」

 

「足元は砂利、闇夜にジャリジャリと音が響く」

 

「風情があるね」

 

「これは名が体を表しているかもしれない」

 

「というと?」

 

「音から名前が付いたかもって事さ」

 

「なるほど、鯛を表しているって事ね」

 

「鯛じゃないよ、体だよ」

 

「鯛もきっとそうかもしれない!」

 

「うん?」

 

「鯛を食べたい!釣りたい!って」

 

「それじゃただの駄洒落じゃないか」

 

「あ、そっかぁ」

 

「まあつまりだな、名前がその様子をよく捉えているのさ」

 

「なるほどねぇ」

 

「例えば、ジャリじゃなくてガリ」

 

「また一緒にお寿司を食べたいな」

 

「ガリッと噛んで口直し」

 

「風がふうっと吹くのもそうかな」

 

「こんな夜じゃ桶屋もやってないけどな」

 

「足元くらいしか見えないし」

 

「今夜は星が出てないから暗いな」

 

「あっぶね、カエル踏みそうになった」

 

「おいおい、気を付けろよ」

 

「鳴いてくれたら気付くのに」

 

「風の鳴き声しか聞こえないな」

 

「うん、寂しくない」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「よし、帰るか」

 

「何かと思ったらまたカエルかぁ」

 

「カエルは飼えないな」

 

「えー、そうかな」

 

「代えるつもりか?」

 

「代えるだなんて思ってないよ」

 

「そっか」

 

「うん、でさ、何を祈ったの?」

 

「どうかな。お前は?」

 

「そりゃ、ポチが天国で幸せになりますように、だよ」

 

「そうか」

 

「で、何を祈ったの?」

 

「うん、同じ事さ」

 

「楽しかったね、ポチとの生活」

 

「桶に入ってばっかりだったな」

 

ケロリン気に入ってたね」

 

「去年の同じ日は一緒に寿司も食べたな」

 

「と言ってもガリだけどね」

 

「もう散歩もできないと思うとな」

 

「この神社の砂利道を歩く事もないね」

 

「でも大丈夫、空から見守っててくれるよ」

 

「あれ、いつの間に」

 

「ほらな」

 

「星が出てる」

 

(終わり)

電話

電話の相手は、驚くほど早く応答した。

 

「もしもし」

 

「ん?」

 

「最近色々と辛くてさ」

 

「何があった?」

 

「まあ色々さ」

 

「なんだ、言いたくないのか?」

 

「口に出すのも辛いんだよ」

 

「そうか、その気持ち分かるよ」

 

「僕は何でも分かってくれるね」

 

「オール肯定さ」

 

「なんか、もう一人の自分みたい」

 

「ま、そんな感じだな」

 

「鏡に僕を映したとしてさ」

 

「ん?」

 

「それは僕であって僕じゃないよね」

 

「もう一人の自分か?」

 

「僕が僕を認識しているのとは少し違う自分さ」

 

「それは僕なのかい?」

 

「もう一人の僕は完全に僕の事を分かってくれるけど、それじゃ意味がないんだ」

 

「意味がないって、僕と話す意味が?」

 

「そう」

 

「何も楽にならないのか?」

 

「そういう事」

 

「誰かに話す事は大切だと思うけどな」

 

「それは勿論」

 

「僕と話したくないって言うのか?」

 

「僕と話していても仕方ないさ、つまり」

 

「つまり?」

 

「こうして一人で会話しても意味ないって事」

 

(終わり)

冥王星


「ここが地球?」

 

「うん、どうやらそうみたい」

 

「話で聞いたよりも緑が少ないな」

 

「そりゃそうだよ、人間が住んでたんだもん」

 

「人間ねぇ、今の所見当たらないな」

 

「調べてきたんだよね、これが地球の地図」

 

「ん?この地図だと地球は平面じゃないか」

 

「違うの、メルカトル」

 

「メカトル?」

 

「メルカトル!」

 

「んでそのメカトルがどうしたんだ?」

 

「はぁ・・・ これはね、球体を平面にした地図なの」

 

「球体なのにどうやって平面になるんだ」

 

「こう、切れ込みをたくさん入れて広げて・・・」

 

「足りない部分が出てくるじゃないか」

 

「そこは・・・こう、繋げるんだよ」

 

「繋げるったって足りない部分はどうすんだよ」

 

「とにかく繋げるの!」

 

「それニセモノじゃないか?」

 

「そうかなぁ・・・やっぱり地球で買わないとダメなのかなぁ」

 

「きっと騙されてるよそれ」

 

「一か八かで買ったのに、外したよ」

 

「伸るか反るかってな」

 

「・・・」

 

「この地図だと今俺達がいるのはどこだ?」

 

「うーん、このニポって所みたい」

 

「かなり濃度が高いな」

 

「そうだね」

 

「トキョって都市にかなり人間がいるらしいよ」

 

「ここはどこなんだ?」

 

「うーん、小さい地図がないから分からないや」

 

「周りも特に何もないしなぁ」

 

「あ、そこに地下に行く階段がある」

 

「シビャ、アキバラ、イケークロって書いてあるぞ」

 

「それは電車の路線図?」

 

「大きい駅だそうだ」

 

「そこ行ってみる?」


「電車止まってるからな、使えないよ」

 

「あ、そっか」

 

「結構文明が発達してるな」

 

「地球の中でも上の方らしいよ」

 

「はー、捨てたもんじゃないな」

 

「捨てられたもんだけどね」

 

「そうだな」

 

「ここが惑星から外されるとはね」

 

「大きさも昔より小さくなったらしい」

 

「やっぱり核戦争の影響?」

 

「クレーターばかりだしな、そうだろう」

 

「なんで同じ星に住んでるのに争うのかなー」

 

「人間ってのは愚かな生き物らしいからな」

 

「あ、そろそろカウンターが限界値だよ」

 

「よし、行くぞ」

 

「もう来られないのかな」

 

「ここにはどの生物も住めないし、汚染される一方だろう」

 

「そっか、寂しいな」

 

「人間が選んだ事だからな」

 

「さよなら、僕が愛した三番目の」

 

(終わり)

ラプラスの悪魔

「この世は物理法則なんだ」

 

「というと?」

 

「ああやって月が動いてるのも、僕らがこうして立ってるのもそう」

 

「へー」

 

「身近な自然現象を解き明かしていく学問を物理学っていうのさ」

 

「なるほどねぇ… ん?手紙だ」

 

"嘘をつくのはお見通し ラプラスの悪魔"

 

「誰?このラプラスの悪魔さんって」

 

「僕らの行動は、ラプラスの悪魔が全て予言してるんだよ」

 

「誰がそんな事言ってたの?」

 

「物理学の偉い人だよ」

 

「その悪魔さんは何でもお見通しって事?」

 

「そういう事」

 

「じゃあ今こうして話してるのも?」

 

「全部予言通りってわけさ」

 

「うぇー、気持ちわるー」

 

「まぁこの発言も見通されてるんだけどね」

 

「嘘です、やっぱ気持ち悪くないです」

 

「それも予言通りだよ」

 

「じゃあまた嘘をついたら?」

 

「これもまた予言されてるんじゃないかな」

 

「悪魔さんも忙しいんだね」

 

「楽じゃない仕事だからな」

 

「仕事なの?それ」

 

「さあ」

 

「このやり取りを延々に繰り返したら、流石に予言できないんじゃない?」

 

「いやいや、全部お見通しさ」

 

「凄いんだね、悪魔さんって」

 

「楽じゃないからな」

 

「じゃあさ、嘘をつくかどうか、サイコロで決めたらどうかな」

 

「ん?」

 

「1,2,3が出たら嘘をついて、4,5,6が出たら嘘をつかないの」

 

「なるほど、そしたら予言できないってわけか」

 

「しかもね、サイコロはここにある箱の…ってうわっ」

 

「ビックリした、中に猫が隠れてたなんて」

 

「ええと、気を取り直して、サイコロはこの箱の中で振るの」

 

「というと?」

 

「僕は出た目が何か分からない」

 

「うん」

 

「僕でさえ嘘をつくかどうか分からないのに、予言通りなんて言えないでしょ?」

 

「なるほど、考えたな」

 

「例えば出た目が1だとするじゃん」

 

「うん」

 

「悪魔さんは嘘をつくと予言していたとするじゃん」

 

「うんうん」

 

「でもそこで嘘をつかないんだよ」

 

「ほう」

 

「そしたら悪魔さんにバレないで悪口を言える!」

 

「はー、なるほど」

 

「どうだ、すごいだろ?」

 

「ん?でも、それじゃ最初に言った嘘をつくルールが嘘なんじゃない?」

 

「そんなルール破っていいんだよ」

 

「でもさっきの」

 

「あっ」

 

(終わり)

三日月

「パンをこねるという言葉があるが、果たしてそれはパンなのか?」

 

「ん?何やら哲学的じゃないか」

 

「白い粉に砂糖や塩、ドライイーストと呼ばれる生地を膨らませるための材料などを混ぜ、生地をこねたらオーブンで焼き上げます」

 

「お腹が減ってきたな」

 

「つまりだ、パンというのはいつからパンになるのか?という話だよ」

 

「そりゃ、焼き上げた時からじゃないか?」

 

「じゃあなんだ、我々が作っているのは未完成パンという事か?」

 

「未完成パンって言うと堅いけど…」

 

「焼いたら硬くもなるさ」

 

「完成パンは柔らかいの?」

 

「いや、未完成パンは柔らかい。だってこねられるんだから」

 

「完成パンだってこねようと思えばこねられるよ」

 

「なんだ、理屈こねて」

 

「こねたら焼くんだよ」

 

「完成パンを?」

 

「そう」

 

「完成パンを焼くとメタ化パンになる」

 

「メタ化って?」

 

「要はあれだ、完成パンの上になるって事だよ」

 

「こねて焼いたら進化するの?」

 

「そうそう、進化パンって事だ」

 

「そんなに焼いたら表面がボロボロにならない?」

 

「それがクロワッサン」

 

「なるほどね。焼き加減、エクセレント」

 

「エクセレントじゃないよ、クレッセントだよ」

 

「誰かにかじられたからあんな形なのかな?」

 

「作っている最中にお腹がすいて我慢できなかったんだよ」

 

「そしたらパンが売れなくなっちゃうよ」

 

「苦労破産という事さ」

 

「儲けが出ないから店を畳んだんだね」

 

「店も焼きあがったってな」

 

「という事は、オーブンの使い過ぎで火事になったのかも」

 

「引火パンの完成だ」

 

「つまり、メタ化パン屋?」

 

「いや、未完成パン屋だったんだろう」

 

「なるほどね。それにしてもパン屋遠かったね、夜になっちゃったよ」

 

「さっさと買っていこう」

 

「あれ?クロワッサン売り切れだ」

 

「それに何だこの張り紙は」

 

"今夜は上で売ってます"

 

「なんだこれ、メタ化クロワッサン?」

 

「クロワッサンじゃないよ、クレッセントだよ」

 

「ちぇ、せっかく買いに来たのに」

 

「仕方ないから帰るしかないな」

 

「でも、もう帰り真っ暗だよ」

 

「大丈夫、三日月が出てるから」

 

「そっかぁ」

 

(終わり)