電話
電話の相手は、驚くほど早く応答した。
「もしもし」
「ん?」
「最近色々と辛くてさ」
「何があった?」
「まあ色々さ」
「なんだ、言いたくないのか?」
「口に出すのも辛いんだよ」
「そうか、その気持ち分かるよ」
「僕は何でも分かってくれるね」
「オール肯定さ」
「なんか、もう一人の自分みたい」
「ま、そんな感じだな」
「鏡に僕を映したとしてさ」
「ん?」
「それは僕であって僕じゃないよね」
「もう一人の自分か?」
「僕が僕を認識しているのとは少し違う自分さ」
「それは僕なのかい?」
「もう一人の僕は完全に僕の事を分かってくれるけど、それじゃ意味がないんだ」
「意味がないって、僕と話す意味が?」
「そう」
「何も楽にならないのか?」
「そういう事」
「誰かに話す事は大切だと思うけどな」
「それは勿論」
「僕と話したくないって言うのか?」
「僕と話していても仕方ないさ、つまり」
「つまり?」
「こうして一人で会話しても意味ないって事」
(終わり)